METROPOLITAN MANDOLIN ORCHESTRA

第17回演奏会

1.日時

 

2006年9月17日(日) 18:00開場 18:30開演

 

2.場所

 

日本大学カザルスホール  (地図はこちら)

 

3.指揮者

 

小出 雄聖

 

4.曲目

 

○アルフレード・カセッラ(笹崎譲編曲)/「小管弦楽のためのセレナード」より「カヴァティーナ」

○ゾルターン・コダーイ(笹崎譲編曲)/ガランタ舞曲

○リヒャルト・ワーグナー(笹崎譲編曲)/楽劇「トリスタンとイゾルデ」より~前奏曲、愛の夜の場面と愛の死

 

5.楽曲解説

 

アルフレード・カセッラ(1883~1947)

 

「小管弦楽のためのセレナード」より「カヴァティーナ」(1927)

 

 カセッラは、トリノに生まれたイタリアの作曲家です。1896年パリ国立音楽院に入学し、のちにフォーレに作曲を学びました。このため、フランス印象派の影響を受けていると思われますが、明快な新古典主義的作風を確立してイタリア音楽の指導者として活躍しました。作品は、交響曲からピアノ曲、オペラ、歌曲など多岐にわたります。

 

「小管弦楽のためのセレナード」は、クラリネット・ファゴット・トランペット・ヴァイオリン・チェロの五重奏のために書かれた「5つの楽器のセレナード」から、小管弦楽のためへの編曲版です。第4曲「カヴァティーナ」は、オリジナルではヴァイオリンとチェロの二重奏、小管弦楽版では弦楽合奏のために書かれています。三部形式による小さな作品ですが、舞い上がり舞い降りる美しい主題を持っています。短い序奏の後に立ち上がるこの主題は、繰り返される都度和声を変えながら毎回異なった経過により大きく発展していきます。静的な部分と動的な部分の対比の美しさ、複雑な和声を用いながらも透明度が高い響きなど、短い楽曲ながらも完成度が高い作品です。テンポや和声を変えながら表現されるこの作品の特徴は、マンドリン・オーケストラが得意とする表現でもあります。


ゾルターン・コダーイ(1882~1967)

 

ガランタ舞曲(1933)

 

コダーイの一生は一貫して作曲と音楽教育のために捧げられ、熱心な啓蒙家としてハンガリーの音楽的レベルアップにも成功しました。自国の民謡の収集、研究に打ち込み、これを土台とした新しい国民音楽を作り上げていったのです。ほぼ同時代のエルネー・ドホナーニ、ベラ・バルトークとともに、ハンガリー民族楽派を代表する作曲家です。

 

さて、ガランタという名前は、ウィーンからブタペストに向かう途中にある村の名前に由来します。曲の楽想は「ガランタ・ジプシー音楽集」として1800年代の初期にウィーンで出版された、ハンガリー舞曲集だと言われています。コダーイはこれらの素材を、洗練された交響的舞曲としてまとめ上げたのです。緩やかな導入部に始まり、情熱的な主要主題が導き出されます。この主題はエピソードを挟みながら幾度と無く回帰し、徐々に熱狂的な盛り上がりを見せる結尾部に入っていきます。。結尾部ではさらに過去のエピソードを部分的に回想し、シンコペーションによるオクターブの跳躍下降音形により、突然と全曲を閉じます。

 

1933年、ブタペスト・フィルハーモニック協会の創立80周年記念のために、作曲されました。


リヒャルト・ワーグナー(1813~1883)

 

楽劇「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲、愛の夜の場面と愛の死(1857~1859)

 

言うまでもなくワーグナーは、オペラの歴史の中にそびえ立つ大巨人です。初期の彼は従来のロマン派歌劇の伝統にしたがい、当時流行していた豪華なグランド・オペラ形式にて作曲をしていました。やがてそれは、劇のもとに音楽、文学、美術などの芸術が統一される総合芸術へと進化していきます。全ての舞台作品の台本をワーグナー自身が書いていることも、ことさら特徴的です。そして、「トリスタンとイゾルデ」以降の作品が歌劇(Oper)ではなく、楽劇(Musikdrama)と呼ばれていることは、このためです。従来の歌劇が独立した楽曲の集合体であることに対して、楽劇は劇を構成する要素を一つの融合体として表現しています。

「トリスタンとイゾルデ」では、「無限旋律」と呼ばれる休みない旋律が延々と続き、成長し、溶け合います。半音階が多用され、調性を感じさせながらも調性的な解決がされない点などが「無限旋律」の特徴と密接に関係しています。登場人物の心情を描き出す「示導動機」が徹底して用いられ、場面の性格に応じて表情、リズム、音程などを自由に変形させることで劇を音楽が語ります。これらの要素が、主人公ニ人のかなえられない愛に対する無限の憧れと官能的な愛の法悦を、凄まじいほどに雄弁に表現しているのです。

 

(第1幕)アイルランドの王女イゾルデは、マルケ王の後妻となることが決まり、船で護送されている。しかし彼女は、イゾルデの許婚を殺害したマルケ王の甥、トリスタンにはっきりとは言えない恋心を抱いている。イゾルデはトリスタンを殺し、みずからも死ぬ覚悟をし、侍女ブランゲーネに毒酒を用意させるが、ブランゲーネは若い姫を助けようと愛の酒を差し出す。トリスタンとイゾルデは狂おしい目つきで見つめ合い、互いの名前を呼び合い抱擁する。

(第2幕)夏の月が輝く夜、マルケ王は狩に出て留守である。イゾルデは灯りを消してトリスタンを招き入れ、「愛の夜の場面」。甘美な愛と法悦。愛の行為と歓喜の絶頂のうちに、恍惚としたニ人は死のうと叫ぶ。突如マルケ王が不倫の場に現れ、王の家来に戦いを挑まれたトリスタンはみずから刀を捨て傷つく。

(第3幕)従僕により助けられたトリスタンのもとへ、イゾルデが現れる。しかし、トリスタンはイゾルデを抱きしめるや力尽きて死ぬ。全ては媚薬のためと知ったマルケ王は二人を許すこととしたが、イゾルデは愛の法悦の中で有名なイゾルデの愛の死<おだやかに静かに彼がほほえんで>を歌いトリスタンの死骸の上で昇天する。

 

本日演奏する抜粋は、この楽劇でもっとも重要な「憧れの動機」で始まる「第1幕への前奏曲」と、第2幕「愛の夜の場面」、クライマックスの第3幕「愛の死」を中心に、全編3時間40分の作品を約30分に凝縮してお届けします。終わることがない「無限旋律」には、マンドリン・オーケストラだから可能な音楽表現があると考えました。恋愛至上主義を高らかに歌った西洋音楽至上屈指の傑作を、堪能いただければと思います。