METROPOLITAN MANDOLIN ORCHESTRA

第4回演奏会

1.  日時

  

1991年9月22日(日) 開場19:00 開演19:30 

 

2.  場所

 

カザルスホール<お茶の水スクエア内>

 

3.  指揮者

 

Ⅰ部 : 笹崎 譲

Ⅱ部 : 小出 雄聖

 

4.曲目

 

Ⅰ部○ミラネージ/序曲「愉快な仲間」

    ○ミラネージ/主題と変奏

    ○アマディ/綺想的間奏曲

    ○ファルボ/組曲「スペイン」

Ⅱ部○ガル/シンフォニエッタ

    ○国枝春恵/ブレンズ for Mandolin Orchestra 

<解説>・・・・・・大場智之 演奏会プログラムより転載

ジュゼッペ・ジルレン・ミラネージ(1891~1950)

 

序曲「愉快な仲間」

 

 ミラネージは1891年イタリアのパヴィアに生まれ、1950年ミラノで没したイタリアの作曲家である。彼は、ミラノのヴェルディ音楽学校に学び、ミラノ市立小学校の合唱指導教師でもあった。彼の作品には、管弦楽組曲、弦楽四重奏曲、弦楽及びオルガン付き二重唱ミサ、吹奏楽五重奏曲、三幕のオペレッタなどがある。また、「ギター及びプレットロ楽器のための和声学概論」(未出版に終わるが)を著わすような理論家でもあった。

 マンドリンの作品では、1921年「イル・プレットロ」誌主催の第5回作曲コンクール第1部門(プレクトラム四重奏曲)に「四重奏曲ト長調」が2位、第3部門Dの部(マンドリンソロまたはギターソロ)に無伴奏マンドリンための無類の難曲「サラバンドとフーガ」が1位にそれぞれ入賞した。1923年にはイタリアマンドリン四重奏演奏コンクールの課題曲選定のための「イル・プレットロ」誌四重奏曲コンクールにて「春に寄す」が1位に入賞している。本曲は、1940・41年(第二次世界大戦中)、イタリアのシエナにおいて行われたL’O.N.D.(L’Opera Nazionale Dopolavoro)という国家機関の主導によって施行されたマンドリンオーケストラのためのオリジナル作品の全国コンクールの第1回目(1940)において4位に入賞している。

 ソナタ形式による演奏会用序曲であり、不安定な序奏、スタカートの歯切れ良いト長調に基づくプレストのコーダにいたる。整った中にもユーモアを漂わせる愛らしい佳曲である。


ジュゼッペ・ジルレン・ミラネージ(1891~1950)

 

主題と変奏

 

 同じくミラネージの手による本曲は、「イル・プレットロ」誌1925年7・8月号の特別出版として発表された。マンドラ・テノーレを用いずに、ヴィオラと同じ調弦のマンドラ・コントラルトが用いられている。A.ヴィオーラという人物に献呈されている。

 曲は主題と4つの変奏からなる。

主題    Andante Cantabile ト長調 4/4拍子

第1変奏  Allegretto ト長調 3/8拍子

第2変奏 Andantino in sei ト長調 6/8拍子

第3変奏 Allegro con disinvoltura ホ短調 2/4拍子

第4変奏 Piuttosto Lento ト長調 4/4拍子

 ギターを抜いたユニゾンで歌われる主題。諧謔的な第1変奏。静かな中に高揚する第2変奏。一陣の木枯らしのような第3変奏。最終変奏で余剰を湛えて静かに終わる。


アメデオ・アマデイ(1866~1935)

 

綺想的間奏曲

 

 作曲者は1866年イタリアのロレートに生まれ、はじめ父ロベルトに学び、その後作曲とピアノをボローニャの音楽学校アカデミア・フィラルモニカで納める。1889年歩兵73連隊の軍楽長になって以来、各地の軍楽隊楽長を歴任する。1916年に退役後トリノに住み、ベルガモ、トリノのマンドリン合奏団における名誉会長・名誉指揮者など、様々な形で音楽界に尽力した。1935年トリノにて逝いた。

 その作品は管弦楽曲、吹奏楽曲、ピアノ曲、歌曲、オペラなど多岐に渡り、500曲ほどといわれる。(内マンドリンへの作・編曲は約90曲)上演回数が325回になるというオペラもあるといわれ、当時のイタリアでの人気が察せられる。

 1906年「イル・プレットロ」誌主宰第1回作曲コンクールにて「プレクトラム」が第1位入賞後、1909年同第2回コンクールにては「海の組曲」が第1位入賞。以降、彼とマンドリン音楽との関係が始まり、40以上の各種コンクールで入賞している。

 本曲は、アマデイのその他多くの作品と同様に、序奏とコーダを伴うA・B・Aによる三部形式である。湧き出ずるような序奏の中から、ギターのリズムにのてイ長調の主部が開始される。中間部はニ長調。付点のリズムによるテーマが「気まぐれな=カプリチオーソ」を満喫させてくれる。

 「イル・プレットロ」誌25周年を記念して、同誌主幹で、アマデイの学友でもあったA・ヴィツァーリに贈られた。


サルヴァトーレ・ファルボ・ジャングレコ(1872~1927)

 

組曲「スペイン」

 

 作曲者は1872年シチリア島のアヴォラに生まれ、1927年この世を去った。バレルモの音楽学校で学び1等で卒業した後、1906年「イル・プレットロ」誌主宰第1回作曲コンクールにおいてピアノ伴奏のマンドリン曲「セレナータ」をもってマンドリン界にデビューし、1910年第3回作曲コンクールではメラナ=フォクトの「過去への礼賛」などと共に、彼の「田園写景」が特別推薦作品に指定された。その後1913年の第4回コンクールにおいて「序曲ニ短調」が第1位に入賞している。

 彼がマンドリンのために残した作品は14曲知られるが、みな傑作の名が高く、低音楽器の使用や対位法的作曲技法に彼の鬼才が示されている。

 本曲は、1945年第5回作曲コンクールで審査員全員(その中には前記のアマディもいる)一致で第2部門(マンドリンオーケストラ)第1位に推された作品で“豊かなメロディーと近代性、さらには正確な和音と気品を持つ、マンドリンオーケストラのプログラムに組み込まれるに相応しい確かな資質の<組曲>”と評された。ちなみに第1部門でもミラネージをおさえ、ファルボの「プレクトラム四重奏曲」が第1位に輝いている。

 曲は4つの楽章にわかれるが、第2楽章・第3楽章は続けて演奏される。

第1楽章  カスティリアのセレナーデ Andantino ondulato  2/4拍子

第2楽章  ホタ Allegretto sostenuto  6/8拍子

第3楽章  カンツォーネ Ma appenna piu animato  4/4拍子

第4楽章  ボレロ Brillantemente  3/4拍子

 スペイン民族色豊かなメロディーが近代的な技法で処理されている。


ハンス・ガル

 

シンフォニエッタ 作品81

 

 ガルは、現在のスロヴァキアのブルノに1890年に生まれた。ウィーン音楽大学で作曲法を学び、1913年博士号を取得、1918年同大学で音楽理論の講師となる。1929~33年マインツ音楽学校校長に就任。33~37年ウィーン大学で、45~65年エジンバラ大学で教授に任命される。その後退官し、エジンバラに住む。

 オペラ、管弦楽曲、合唱曲、室内楽曲、歌曲と多数の作品を書いており、マンドリンのためにも優れた独奏曲、合唱曲を書いている。本曲のほかにも「綺想曲」、3楽章からなる「小組曲」や「間奏曲」、独奏マンドリンとピアノのための「嬉遊曲」などが出版されている。既成の枠に囚われない書法で、美しいメロディーに彼独特の和声をもって現代性を付与している。

 本曲は題名が示すとおり、4楽章からなる交響的性格を持つものである。1980年に出版された。

 

第1楽章  Allegro con spirito イ長調 2/4拍子 ソナタ形式

 

第2楽章  Andante ハ長調-Poco piu mosso ト短調-Andante ハ長調

-Poco piu mosso ハ短調-Andante ハ長調  6/8拍子  展開部を省略したソナタ形式

 

第3楽章  Scherzino-Molt Vivace へ長調(中間部 イ短調)  6/16拍子 三部形式

 

第4楽章  Allegretto イ長調 4/4拍子-Andante ハ長調 3/4拍子

-Allegretto イ長調 4/4拍子-3/4拍子-4/4拍子-Poco sostenuto quasi maestoso-Allegretto  ソナタ形式


国枝 春恵

 

ブレンズ for Mandolin Orchestra (委嘱作品・初演)

 

 "Blends"混合物、混成語の意。

私達が接しているマンドリン・オーケストラは、異なったルーツを持つ楽器の混合体である。リュート族(マンドリンの先駆マンドリーナ)、ガンバ族、ギター族等の混合による特殊な合奏体とも言える。

撥弦楽器のリュート族を弓で奏することにより、時代と共に音響理想の変化に対応しながら構造上の変化をもたらしている。例えば、胴体がくびれて弓弾し易くなったり、弦の張力や駒の高さが変化して弓による強弾が可能になったり。

バイオリン族とマンドリン族を比較すると、その演奏上の可能性に大幅なギャップがあり、このことを念頭に置かないと作曲上様々な困難が降りかかってくる。3年前に作曲した"Coloring" for Mandolin Orchestra の際もこのことに注意しながら作業を進めていった。そして今回はこの点を逆手に活用すべく作曲した。

 全体は3つの章で構成されている。Ⅰ章、Ⅱ章は4人の独奏楽器群とオーケストラに分かれている。マンドリンの音質が室内楽的な美しい音色を持っているという特質から発想を得た。4人がバイオリンの弓であえて弓奏することは、異種の楽器を混合している行為である。これは、マンドリンオーケストラへの、私的なアンチテーゼである。トレモロによるレガート奏法は、独特の不安定な音響を作り出すので、Ⅱ章で多く用いられる。

Ⅲ章は、全員による軽快なトッカータで幕を閉じる。

(作曲者記)

 

作曲者プロフィール

 

1982年 第33回ヴィオッティ国際音楽コンクール作曲部門特別賞受賞。

1983年 東京芸術大学大学院作曲科修了。

1986年 タングルウッド・ミュージック・センター給費研究生として渡米。

 作曲を池内友次郎、野田暉行、オリバー・ナッセン各氏に指示。日本現代音楽協会、日本作曲家協議会、深新会、各会員。洗足学園大学、東京都立芸術高等学校講師。

 

主要作品

  • ヴァイオリン・クラリネット・ピアノのための「三重奏曲」
  • ピアノ曲集「音のプリズム」
  • マンドリン・オーケストラのための「カラリング」
  • 室内オーケストラのための「フィールドⅢ」 等

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