1. 日時
1997年9月6日(土) 開場18:30 開演19:00
2. 場所
カザルスホール<お茶の水スクエア内>
3. 指揮者
4.曲目
Ⅰ部○ヴェーベルン(笹崎譲編曲)/弦楽四重奏のための緩除楽章(1905)
○北爪道夫/カント (委嘱作品・初演)
Ⅱ部○アルベニス(笹崎譲編曲)/組曲「イベリア」より抜粋
<解説> 進藤知哉・・・・・・演奏会プログラムより転載
アントン・フォン・ヴェーベルン(1883~1945)
弦楽四重奏のための緩除楽章(1905)
シェーンベルク(1874~1951)にその弟子であるヴェーベルンとベルク(1885~1935)を加えた3人を新ヴィーン派といい、12音主義(dodecaphony)による作品をかいた、というのが音楽史の教科書にかいてあることですが、ヴェーベルンの作品番号の付されていないこの曲は12音主義の技法が確立される(1921年頃)前に書かれ、非常にロマンチックな雰囲気を持っています。同じく1905年に書かれたこれも作品番号を持たない弦楽四重奏曲(Streichquartett)がほとんど調性感をもたないのに比べると非常に対照的な気がしますが、実はこの曲を書いたとき彼は後に妻となる従妹に夢中になっており、このようなポスト・ヴァーグナー風の作品を書いたのだという説があります。
曲は単一楽章からなり、ハ短調4分の4拍子の「表現に満ちて活気づいてゆっくりと(Langsam.mit bewegtem Ausdruck)」に始まります。序奏なしで第一ヴァイオリンにより奏される、4度の跳躍から始まり2オクターヴに届かんとする主題を含む部分をAとし、「非常に落ち着いて(Sehr ruhig)」と書かれた第2ヴァイオリンのハ長調の主題を含む部分をBとすると、全体はA-B-Aの3部形式に短いコーダがついている形式と俯瞰できます。
ヴィーン風後期ロマン派の最後の輝きがマンドリン合奏でどのような編曲・味付けが行われているかを楽しんでいただきましょう。
北爪道夫(1948~)
カント (委嘱作品・初演)
正確に言うと、CANTO FUNEBRE(葬送の歌)。亡き友に捧げたい。もっとも彼は、私が今後も書いてゆくであろう作品群のなかから、気に入ったものを勝手に(迷惑ついでに)選ぶだろう、きっと。だから、タイトルはCANTOだけにしておこう。
楽器と私の小さな接点を大きく拡げるのが作曲。私も今、マンドリン・オーケストラのオリジナルを探す度に参加できて光栄です。
(作曲者記)
作曲者プロフィール
1948年東京生まれ。東京芸術大学、同大学院修了。1977年、演奏家と作曲家の協業グループ「アンサンブル・ヴァン・ドリアン」の結成に参画、作曲・企画・指揮を担当、1985年までに多くの内外の現代音楽を紹介。1983年、シェーンベルク以降の作品演奏と企画に対し、同団体として第1回中島健蔵現代音楽賞を受賞。1979年、文化庁派遣芸術家としてフランスで研修。
日本交響楽振興財団委嘱作品「管弦楽のための映照」で1994年、尾高賞、ユネスコのIMC国際作曲家会議1995年度最優秀作品賞を受賞。
作品はNHK交響楽団ほか主要オーケストラで再演され、1998年には新星日本交響楽団定期、東京オペラシティ・オープニングシリーズでも取り上げられる予定。
その他、広い分野に多数の作品があり、ハンガリー・フェスティバル、パリの秋フェスティバル、フィンランド・クフモ音楽祭ほか内外の音楽祭や、コンサート、放送、CDで紹介されている。
京都市立芸術大学教授を経て、現在、愛知県立芸術大学教授。
主要作品
イサーク・アルベニス(1860~1909)
「イベリア」12の新しい“印象”全4巻(1905~1908)より
1.エボカシオン(1905)
2.エル・プェルト(1905)
6.トゥリアーナ(1906)
11.ヘレス(1908?注)
12.エリターニャ(1907)
曲の番号は、全4巻12曲の通し番号
(注:自筆府には1909年と書き込みがありますが、1908年に出版されているので、おそらく1908年の間違いでしょう)
アルベニスはスペイン東北部のカタルーニャ地方に生まれ、早くからピアノの演奏に才能を示しました。ライプツィヒ音楽院を経てブリュッセル音楽院に学び、1879年ピアノ科を主席で卒業。1880年にはブタペストでフランツ・リストに会いに行っています。マドリード、ロンドン、パリを拠点にヨーロッパ中をピアノの演奏旅行をしたり、ピアノを教えたり、指揮・作曲をしたりして活躍しました。晩年は病弱となり、48歳で亡くなっています。
この「イベリア」は、彼の最高傑作です。ドビュッシーは晩年にいたるほど「イベリア」を深く愛し、譜面は常にピアノの傍らに置いてありました。「『エル・アルバイシン』(第7曲)に匹敵しうる楽曲は世の中に数えるほどしかない」、「『エリターニャ』は、あまりにも豊かなイメージに耐えかねて、思わず目を閉じてしまうほど」と述べています。オリヴィエ・メシアンは、「奇跡をみるようなスペイン音楽の傑作。否、ピアノ音楽の一等星たちの中において、なおも光りを失わない最高度の作品」と絶賛しています。
「イベリア」とは、古代スペインとその半島の名前です。
○第1曲「エボカシオン(喚起)」
12曲中この曲の題名のみが地名に因んでいません。自筆譜では「前奏曲」と書かれています。アルベニスは彼が愛したイベリアの地、故国スペインの魂を呼び覚まそうとしています。ファンダンギーリョ(小ファンダンゴ)の舞踊形式です。アレグレット、変イ短調、3/4拍子。
○第2曲「エル・プェルト(港)」
El puertoは普通名詞で、“港”のことですが、アルベニスは自筆譜に<Cadix>と記しております。これはアンダルシア西部の太平洋に面した港カディスのことです。アレグロ・コモド、ニ長調(原曲は変ニ長調)、6/8拍子。全曲が軽快なタンギージョ(軽いタンゴ)またはパテアードのリズムによっています。
○第6曲「トゥリアーナ」
トゥリアーナとは、セビーリャの一画にあり、古くからジプシーの居住地として知られたところです。アレグレット・コン・アニマ、嬰へ短調、3/4拍子。すべてがリズミカルに、まばゆいほどの色彩感を持って書かれています。
○第11曲「ヘレス」
へレスは西アンダルシアの平野部にあり、カディス港からさほどに遠くない街です。古くからのワインの産地で、英語のシェリー(sherry)はへレスの古い綴りである<Xeres>からの訛りです。アンダンティーノ、3/4拍子で、調性はホのフリギア旋法(ミの旋法)です。全12曲のうちこの曲のみが調号がありません。「イベリア」の中でもっとも演奏時間が長く、もっとも繊細なロマンチシズムをおびた傑作です。
○第12曲「エリターニャ」
題名は、セビーリャ市の郊外にある料亭の名前です。祭りの日の踊り歌セビリャーナスの調子で書かれていますが、高度に洗練された心象風景とでも呼びたいような作品です。アレグレット・グラツィオーソ、ホ長調(原曲は変ホ長調)、3/4拍子。颯爽とした序のフレーズに導かれて、明るく粋な踊りが始まります。そのテンポはゆるむことなく軽やかな変奏が紡がれていきます。アルベニスが若い頃からしばしば綴ってきた、“歌い踊るアンダルシア”への賛歌であり、全12曲の棹尾を飾るにふさわしく堂々と曲を閉じます。