METROPOLITAN MANDOLIN ORCHESTRA

第12回演奏会を語る!

第12回演奏会までもうすぐとなりました。目前に迫った演奏会の話題はこのページでご案内させていただきます。(2001年9月21日にこの演奏会は開催されましたが、記録としてこのページも残しておきたいと思います。)

 

おそらく皆さんが始めて耳にされるであろう演奏曲目について、思いつくままに私からのガイドをアップしておきたいと思います。

 

☆国枝春恵/ブレンズ for Mandolin Orchestra

演奏時間 約13分
編成 1楽章 ソリストMn1、Mn2、Md、Mc(全員ヴァイオリン等の弓を使用)+弦7部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Ml、Cb)
  2楽章 ソリストMn1、Mn2、Md、Mc(全員ヴァイオリン等の弓を使用)+弦7部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Ml、Cb)
  3楽章 弦7部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Ml、Cb)
楽譜 未出版。作曲者自筆譜より、メトロポリタンマンドリンオーケストラが作成・校訂(スコアおよびパート譜)。

METの現在の指向が確立された第4回演奏会での委嘱作品です。始めてのカザルスホールでの始めての委嘱作品。

 

マンドリン・オーケストラの演奏を始めて聞いた国枝氏は、ブリブリとトレモロを強奏している音楽よりも、曲間に調弦をしている響き、不規則に解放弦のAやEが雨音のように鳴っている時間にはっとする美しさを感じたとおっしゃっていました。氏のマンドリン・オーケストラのための第1作「カラリング」にその特徴が表れています。「ブレンズ」にの1楽章おいては1stマンドリン・2ndマンドリン・マンドラ・マンドロンチェロ各一人を切り離し四重奏を作り、しかも彼らは弓で演奏をします。この澄んだ不思議な響きの間にオーケストラの複雑なリズムが飛び込んでいきます。

 

2楽章はトレモロの効果を生かした作品。四重奏もオーケストラも不協和音が続くのですが、海の底のような美しさが広がります。

 

3楽章は一転したテンポの速い楽章。8分音符の2+3+3+4+3+2+3+4というリズムを中心に進むトッカータです。


☆鈴木輝昭/僧園幻想

演奏時間 約11分
編成 ソリスト4(Mn1、Mn2、Md1、Md2)+弦6部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Cb)
楽譜 未出版。作曲者自筆譜より、メトロポリタン・マンドリン・オーケストラが作成・校訂(スコアおよびパート譜)。

第5回演奏会で初演された、MET2曲目の委嘱作品です。

 

宮沢賢治の詩に「僧園幻想」というものがありまして、これに着想された音楽と聞いています。

 

身震いするような冒頭和音から音楽が導き出されます。始めてスコアを音にしたときに、この和音だけで既に私は感激してしまったことを良く覚えています。終始、マンドリン、マンドラ・テノールそれぞれ2本づつのソロパートと、トゥッティのマンドリン・オーケストラに声部が別れて進みます。混沌としたハーモニーの中に、厳しい音楽で切り込んで入る独奏楽器群。カナカナと鳴く蜩。訪れる静寂。再現される混沌。やがて暗闇に星がまたたき始めるかのように、様々なリズムで輝きが始まり、カーテンを閉めたかのように曲が終わります。

 

大変演奏は難しく音の数も多いのですが、実に美しい音楽だと私は思っています。音楽のスタイルは、本当に様々にあることを教えてくれます。お客様にもじっくり聞き込んでいただけたらと存じます。

僧園幻想

 

星のけむりの下にして

杉むら黒くひそめるに

いとあしざまにうちなきて

くゎくこう北に截りすぐる

 

夜のもみぢの木もそびえ

御堂の屋根も沈めるに

あやしく身うちのびたつは

鬼の堺にやわが墮ちし

 

星のめぐりの下にして

石組怪しくうごめきつ

わが身はいとどのびたちて

はてはいづちと知らぬらし

 

更に一羽の鳥ありて

わがまん圓のぬかの上

無方のかなたうちけぶる

寒天いろの夜に溶くる  (宮沢賢治)



☆池辺晋一郎/マンドリン・マンドリアーレ  マンドリン・オーケストラのために

演奏時間 約9分
編成 弦6部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Cb)
 楽譜 全音楽譜出版社よりスコアが出版されています。

青少年音楽日本連合(JMJ)委嘱により、第12回JMJコンサートで初演されました。庄山の<マンドリン音楽について思うこと>(2001年5月ごろの日記)にも詳しく書きましたが、クラッシック音楽の一線で活躍している作曲家によってかかれた最初期の作品です。

 

いきなりうねるような特徴的なテーマに始まります。この4小節の間に、12音すべてがおり込まれています。作曲者が「のびやかな風に憧れつつ書いた」とあらわしているように、このテーマが様々な形で表れます。うねるようなトリルから、グリッサンドの雲の中をテーマが漂うなど、池辺氏の特徴的な書法も使われています。といって、調性感も残された作品でもありますので、難解な音楽ではありません。JMJの初演以降、比較的よくマンドリン・オーケストラの演奏会で取り上げられているわけは、このあたりにもありましょう。

 

全曲の終わりは、オーケストラが楽器のボディをこぶしで叩いたあとにドミソの主和音で終わるという、何とも人をくったような演出には、思わずニヤリとさせられます。N響アワーで快調にダジャレを飛ばす池辺氏の顔が、重なってしまう作品です。

 

今回はこの作品の初演指揮者と、多くの初演メンバーを含むメトロポリタン・マンドリン・オーケストラがお届けいたします。

 

追記:委嘱・初演にたずさわった作品がこうして出版されることは、やっぱりうれしいものですね。メトロポリタン・マンドリン・オーケストラによる委嘱作品も皆さんの手にお届けできる形とするべく、努力していますのでどうぞよろしくお願いいたします。


☆近藤讓/眠るヴェニス---マンドリン・オーケストラのためのアリア

演奏時間 約8分
編成 弦6部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Cb) アドリブでアルトフルート
楽譜 ヨーク大学音楽出版局(UYMP)よりスコア、パート譜とも貸し譜として出版されています。

現在もっとも世界的に知られた日本の作曲家の一人が、近藤譲氏です。現代音楽にあられたミニマル音楽の流れを、独自に発展させた作曲家であることは、いうまでもありません。JMJの委嘱作品ですが、METでも1度取り上げております。

 

単音のフォルテとピアノの対比、同様のトレモロによる演奏との対比など、コントラストがとても特徴的な音楽です。1stマンドリンと2ndマンドリンが錯綜する中から、チェロが高音域で新しいテーマを歌う部分では、今回はアルトフルートをスコアの指定どおりに加えて演奏します。


☆北爪道夫/カント

演奏時間

約11分

編成

弦7部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Ml、Cb)

楽譜 未出版。作曲者自筆譜より、メトロポリタン・マンドリン・オーケストラが作成・校訂(スコアおよびパート譜)。

今年2001年に、北爪氏は2回目の尾高賞を受賞されました。早速5月の受賞記念演奏会で「地の風景~オーケストラのための」を聴いてまいりました。私が申しあげるのも恐縮ですが、氏の音楽は低音部が落ち着いた大地にしっかりと立ち上がった音楽であると思います。カントは葬送の歌を指しているそうですが、ロマンもたちこめた音楽です。

 

マンドリンの叫びから曲が始まり、中間部までsempre ff のトレモロの音楽が続きます。マンドラ以下の強奏で動くテーマを迎えたら、そこが中間部です。遠くから美しい音楽が聞こえ始め、低音部の足踏みのようなリズムとともに、近づいてきます。やがて明るく、美しく、悲しい旋律が立ちあがり、通りすぎていくのです。氏の管弦楽のための作品には音符の数が多い印象があるのですが、カントはテヌートの音楽です。しかし、ギターにもトレモロを多用した悲痛なまでのこの歌は、強烈に訴えかける力を持っており、私はスコアを繰り返し読むうちに、個人的に最もお気に入りの作品になっていきました。


☆西岡龍彦/2台のマリンバとマンドリン・オーケストラのための「3つの間奏曲」

演奏時間 約11分
編成 Mar×2、弦6部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Cb)
楽譜 未出版。作曲者自筆譜より、メトロポリタン・マンドリン・オーケストラが作成・校訂(スコアおよびパート譜)。

この曲を委嘱した年のこと、作曲の進み具合のお電話を西岡氏にさせていただいたときでした。「弦楽だけでなくて打楽器も組合わせていたいと思うのだけど、どうだろう?」「もちろん、先生にお任せしているのですから、奏者は当方で用意しますよ。充実した作品を書いていただけることが何よりうれしいのですから」と、私。かくして、完成した作品はマリンバ2台が必要となりました。いやー、慌てた慌てた。

 

ご存知のとおり、マリンバは旋律を演奏できるという意味で、その他の打楽器と比べれば、演奏テクニックがことなります。多くの場合は片手に2本ずつのバチを持ち、音程の違いによって指で間隔を開けたり狭めたりしながら演奏します。この曲ももちろんそのテクニックは必要で、しかもかなり難しいのです。今回の演奏会で、必聴、必見の曲目です。

 

第1曲は点描的な音楽。丸い宝玉を転がしたようなオーケストラのピチカートが、特徴的です。第2曲はロマンティックな音楽。19秒にわたるギターのカデンツァ、各パートの独奏楽器による推移部を経て、マリンバ2台による長大なカデンツァになだれ込みます。この楽章は聴きどころです。第3曲は各パートを4つに分割し、階層的構造をした音楽。計算された予測できないリズムで、次々に楽器群が飛びこんでいきます。


☆吉松隆/虹色機関Ⅰ

演奏時間 約8分
編成 Mobile Section:弦3部(Mn、Md、Gt)+Rainbow Section:弦7部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、Ml、Cb)
楽譜 音楽之友社よりスコアが出版されています。パート譜は貸し譜です。

氏は、現代の作曲家の中で、もっとも人気がある作曲家のお一人です。調性を持った氏の作品に初めて接したとき、相当ビックリしたことを覚えております。まさしく世紀末叙情主義。ギター協奏曲「天馬効果」は、世のギター弾きにおすすめです。

 

さて、本曲ではオーケストラを2群に分割します。中央部にはマンドリン、マンドラ、ギターからなる動的な機関:モビールパートを置き、これを取り囲む様にマンドリン・オーケストラ:レインボーパートが配置されます。モビールパートは最弱音から16ビートのアルペジオを出力し、終始演奏をし続けます。(奏者にしてみると、左手がつりそうになります。毎日入浴時にはテニスボールを100回握るなどのトレーニングが必要でしょう。笑。)レインボーパートは和声を付け加え、やがてロック音楽のようなシンコペーションを出力しモビールパートを飲みこんでいきます。フォルテシモのクライマックスを通過すると、突如としてフリギアに転調、エコーの様に穏やかに表情を変えた音楽を通過して静かに曲を終えます。その構成は驚くほどシンプルですが、吉松氏の特徴的なロマン的芳香が立ち込めた音楽です。