METROPOLITAN MANDOLIN ORCHESTRA

第12回演奏会

池辺晋一郎(いけべ しんいちろう)

 

マンドリン・マンドリアーレ(1986)

(初演:1986年11月24日 小出雄聖指揮 ジュネス・ミュジカル・マンドリン・オーケストラ) 

 

 マンドリン・オーケストラという形態に、日頃ほとんどかかわりがない。以前、送ってくれたテープで、私のNHK大河ドラマテーマ曲を、この形態に編曲したものを聴いたことがある。それは何か不思議なものであった。

 とは言え、マンドリンやマンドラは、私の演劇のための音楽その他にしばしば登場する。マンドリンが歌うと、ひとの歌う息吹が直截に楽器にのり移って、その歌が歓びであれ哀しみであれ、屈託のないのびやかな風が沸き起る。Mandrialeは、古い歌の形であるマドリガルのさらに語源である。

 のびやかな風に憧れつつ書いた。風の行方を見定めたい気持ちでいる。

(作曲者記)

 

作曲家プロフィール

 

1943年 9月15日水戸市に生まれる

1967年 東京芸術大学卒業

1971年 同大学院修了

      池内友次郎、矢代秋雄、三善晃、島岡譲の各氏に師事

 

主な受賞暦

・1966年 ◇第35回日本音楽コンクール第1位(管弦楽のための2楽章「構成」)

      ◇音楽之友社室内楽曲作曲懸賞第1位(「クレパ」7章)

・1967年 ◇中西音楽賞第3位(2つのバラード)

・1968年 ◇音楽之友社作曲賞受賞(シンフォニーl)※ローマ数字の1

・1971年 ◇ザルツブルクTVオペラ祭優秀賞(オペラ「死神」)

  ◇芸術祭優秀賞4度

・1974年 ダイモルフィズム  ・1982年 合唱組曲「どろんこのうた」  ・1983年 混声合唱組曲「異聞・坊ちゃん」    ・1984年 オイディプス遍歴

  ◇イタリア放送協会賞2度

・1976年 音楽劇「もがりぶえ」  ・1989年 音楽ファンタジー「カルメン」

・1989年 ◇国際エミー賞優秀賞(音楽ファンタジー「カルメン」)

  ◇尾高賞2度

・1991年 シンフォニーⅣ  ・1999年 悲しみの森~オーケストラのために

-付帯音楽分野-

  ◇毎日映画コンクール音楽賞3度

・1980年 「影武者」  ・1984年 「瀬戸内少年野球団」  ・1990年 「夢」「少年時代」

  ◇日本アカデミー賞優秀音楽賞7度

・1980年 「復讐するは我にあり」  ・1984年 「楢山節考」「オキナワの少年」  ・1985年 「瀬戸内少年野球団」<最優秀賞>  ・1991年 「夢」「少年時代」<最優秀賞>  ・1992年 「八月の狂詩曲」  ・1994年 「まあだだよ」  ・1998年 「うなぎ」

・1997年 ◇有馬賞(NHK-TV出演についてNHK交響楽団より受賞)

 

主要作品

<交響曲Ⅰ~Ⅶ>

 Ⅰ(1967年) Ⅱ「トライアス」(1979年) Ⅲ「エゴ・パノ」(1984年) Ⅳ(1990年) Ⅴ「シンプレックス」(1990年) Ⅵ「個の座標の上で」(1993年) Ⅶ「一滴の共感へ」(1999年)

<ピアノ協奏曲Ⅰ~Ⅱ>

 Ⅰ(1967年) Ⅱ「おまえは私を・・・」(1987年)

<ヴァイオリン協奏曲(1981年)>

<木に同じく-チェロ協奏曲(1996年)>

<オペラ>

 「死神」(1971年) 「耳なし芳一」(1982年) 「秩父晩鐘」(1988年) 「おしち」(1995年) 「じゅごんの子守唄」(1996年)

<バレエ>

 「いのち」(1974年) 「動と静-アブ・シンベルの幻覚」(1984年)

他・管弦楽、室内楽曲(邦楽を含む)、合唱曲、歌曲、ミュージカルなど多数

-付帯音楽作品-

<映画>

・黒澤 明監督作品:「影武者(1980年)」「夢(1990年)」「八月の狂詩曲(1991年)」「まあだだよ(1993年)」

・今村昌平監督作品:「復讐するは我にあり(1979年)」「ええじゃないか(1981年)」「楢山節考(1983年)」「女衒(1987年)」「うなぎ(1997年)」

・篠田正浩監督作品:「桜の森の満開の下(1975年 共作:武満徹)」「佐渡國鬼太鼓座(1975年)」「練習帆船日本丸(1976年)」「瀬戸内少年野球団(1984年)」「少年時代(1990年)」「瀬戸内ムーンライトセレナーデ(1997年)」

 近作、緒方明監督作品「独立少年合唱団(2000年)」、中原俊監督作品「カラフル(2000年)」、他多数

<TVドラマ>

 「黄金の日々(1978年)」「未来少年コナン(1978年)」「御宿かわせみ(1980年)」「峠の群像(1982年)」「澪つくし(1985年)」「独眼竜政宗(1987年)」「君の名は(1991年)」「八代将軍吉宗(1995年)」

 近作、「元禄繚乱(1999年)」など多数

<演劇>

 文学座、俳優座、民藝、無名塾、東京演劇アンサンブル、東宝、松竹ほか約350本

-著作-

<エッセイ集>

 「音のいい残したもの」(1982年 音楽之友社)  「空を見てますか・・・音と交わる、人と話す」(1996年 芸術現代社)

<対談集>

 「スプラッシュ」(1993年 カワイ出版)  「友よ、白い花を」(1997年 大月書店)

<シンポジウム、他>

 「炎と涙の底から-鎮魂の再生のハーモニー」(森村誠一・池辺晋一郎・木津川計・同団の共編 1999年) 「21世紀に向かう文化・芸術を語る」(1998年 うたごえ運動創立50周年記念委員会) 「おもしろく学ぶ楽典」(1995年 音楽之友社)

-役職-

水戸芸術館企画運営委員・紀尾井ホール企画運営委員・宮崎県立劇場顧問・横浜みなとみらいホールアドバイザー・日本音楽コンクール運営委員・東京オペラシティ・ミュージックディレクター・(社)全日本合唱連盟理事・(社)日本音楽著作権協会評議員・(財)日本近代音楽財団評議員・(社)日本作曲家協議会会長・東京音楽大学教授


鈴木輝昭(すずき てるあき)

 

僧園幻想(1993)

(初演:1993年9月12日 小出雄聖指揮 メトロポリタン・マンドリン・オーケストラ)

 

 マンドリンの特性ともいえるトレモロの奏法は、私にとって、音楽の様々な領域で近年追求し続けている震える持続、というモティーフそのものであり、同時に、そこから紡ぎ出される線と和弦の広がりを探っていくことが、この作品に課せられた主題である。モード(旋法)を中心としたヘテロフォニックな声部の絡みと、速度をもった器楽的パッセージがマンドリンオーケストラという媒体をとおしてどこまで昇華できるだろうか。

 宮沢賢治の文語詩「僧園幻想」からイメージされる世界が、音楽的形質をもつことによって生まれる新たな幻想、ヴィジョンを展開してゆきたい。

 

 マンドリンという楽器、さらにその大編成アンサンブルは、多様であると同時に、独特の色彩と比類なき世界を持っている。それゆえ、作曲家固有の内的宇宙を映し出す表現体として、まさにこれからの音楽創造の場で多くの可能性を秘めていると言えるだろう。

 (作曲者記)

 

作曲家プロフィール

 

 1958年、仙台生まれ。桐朋学園大学作曲科を経て同大学研究科を修了。三善晃氏に師事。第46回(室内楽)および第51回(管弦楽)日本音楽コンクールにおいて、第1位、2位を受賞。

 

1984年、日本交響楽振興財団第7回作曲賞。1985年及び1987年、西ドイツのハンバッハ賞国際作曲コンクール、管弦楽、室内楽両部門において、それぞれ1位を受賞。以後、管弦楽作品がドイツ、ハンガリー、スウェーデンで演奏、放送される。1988年、仙台において、オペラ「双子の星」(宮沢賢治原作)を初演。1990年、第16回民音現代作曲音楽祭の委嘱による、二群の混声合唱とオーケストラのための「ヒュムノス」が初演される。1991年、村松賞受賞。日本作曲家協議会、同人アール・レスピラン等に所属。桐朋学園大学音楽部非常勤講師。

 

 

主要作品

1983 弦楽四重奏曲

1984 ヴァイオリン協奏曲

1985 交響的変容/「ソン・ストラクチュール」

1986 「モード・アンテリゥ Ⅱ」ヴァイオリンとピアノのための

1987 「リチェンツァ」ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための

1988 オペラ「双子の星」

1990 「ヒュムノス」二群の混声合唱とオーケストラのための   「プロラツィオ」クラリネットと十三楽器のための

1991 「スコリオン」五人の奏者のための   「ヒュアデス」七人の打楽器奏者のための

1992 「森へ」ニ群の童声合唱とピアノのための   「プレシオスの鎖」六人の奏者のための

1993 「僧園幻想」マンドリン・オーケストラのための   「アルス・アンティカ」ニ群の女声合唱のための

1994 「五つの協奏的断章」室内管弦楽のための   「道成寺縁起」無伴奏混声合唱のための   「詞華抄」無伴奏混声合唱のための

1995 「ピエリアの薔薇」(アルス・アンティカ第二番)

1996 「オーダエ カルミヌム」

1997 合唱オペラ「森」   「プレアデス エミッション」五人の奏者のための   「ディアローグ」クラリネット、チェロ、ピアノのための

1998 「カント マリエリスモ」室内管弦楽のための

1999 「クラーン リル」   「みみをすます」童声合唱と管弦楽のための

2000 「ストーン ルミナス」ピアノのための   「レクイエム」混声合唱と管打楽アンサンブルのための


近藤讓(こんどう じょう)

 

眠るヴェニス------マンドリン・オーケストラのためのアリア(1995)

(初演:1995年12月3日 小出雄聖指揮 ジュネス・ミュジカル・マンドリン・オーケストラ)

 

マンドリンという楽器は、伝統的に、二面的な性格を抱え込んでいる。即ち、トレモロで奏される際の歌唱力、そして、単音で弾かれる場合の撥弦楽器としての点的性格である。音楽的には、これらの二つの面は、必ずしも常に両立するとは限らない。この作品での私の試みのひとつは、正に、この楽器のそうした両面の音楽的活用を一曲の中で同時に行うことであった。

 この作品は、第1及び第2マンドリン、マンドラ、マンドロン・チェロによる4部合奏を主体に書かれている。そこから生み出されるスタティックな音楽に、ギターが奏する点的なアクセントと、コントラバスの旋律的線(この線は、アルト・フルートによって補強されてもよい)が重なり合うことによって、或る種の劇的な効果が生じる。

 「マンドリン・オーケストラのためのアリア」という副題を持つこの<眠るベニス>は、NHKの委嘱により、JMJマンドリン・オーケストラのために、1995年の10月に作曲された。

(作曲者記:MET9thパンフレットより転載)

「初演から既に6年弱。作品は、時を経るにつれて異なって聴こえ、異なった印象を与えるものです。その意味でも、久し振りの再演を楽しみにしています。」

「マンドリン・オーケストラには一種の土臭さがある、と私は思う。それは、ヨーロッパの近代に生まれ育まれたものではあっても、管弦楽のオーケストラのように洗練さてはいない。磨き調えられていない、素朴で不均質な響きは、それ故に却って、音楽の新たな表現性を担う大きな可能性を秘めている。」(近藤譲)

 

作曲家プロフィール

 

 1947年生まれ。東京芸術大学で長谷川良夫、南弘明に作曲を学ぶ。1977-78年に、ロックフェラー3世財団の招きでニューヨークに滞在。1979年には、カナダ・カウンシルの招聘でブリティッシュ・コロンビア州のヴィクトリア大学で教鞭をとり、又、1986年には、ブリティッシュ・カウンシルのシニア・フェローとして1年間ロンドンに滞在した。

 内外の多くの音楽祭にテーマ作曲家として招かれ、又、「フィレンツェの5月」音楽祭やロンドンのサウスバンク・センターを始め、様々な主要機関・演奏団体から作曲委嘱を受けている。作品は、オペラやオーケストラ曲から、室内楽、独奏曲、電子音楽まで広範に及び、これまでにほぼ90曲を超える。それらの多くは、内外で頻繁に演奏され、録音されている。作品の楽譜は、ほぼ全作品がイギリスのヨーク大学音楽出版局(UYMP)と、ニューヨークのPeters Editionから出版されている。

 1980年から10年間、現代曲の演奏を専門とする室内オーケストラ「ムジカ・プラクティカ」を率いて、多くの新しい作品を演奏、紹介に努めた。又、1979年以来、著書・訳書も多く、イギリスの現代音楽専門誌「Contemporary Music Review」の日本編集委員である。主著に、『線の音楽』『耳の思考』等、主要論文に「The Art of Being Ambiguous----From Listening to Composing」等、又、主な訳書に、ケージ『音楽の零度』(訳編)、ヒューズ『ヨーロッパ音楽の歴史』(共訳)等がある。

 現在、エリザベト音楽大学教授。更に、東京芸術大学でも教鞭をとっている。


西岡龍彦(にしおか たつひこ)

 

2台のマリンバとマンドリン・オーケストラのための「3つの間奏曲」(1994)

(初演:1994年9月18日 小出雄聖指揮 メトロポリタン・マンドリン・オーケストラ)

 

 曲の委嘱を受けたとき「現代曲」というのがその条件でした。アマチュアのマンドリン・オーケストラということだったので、比較的演奏が容易で、聴きやすい「組曲」を考えていたのですが、やがて送られてきた今までの演奏テープを聴いて、このオーケストラが実に高い演奏能力を持っていることが解り、「これならば、自分が普段使用している音楽語法で何ら問題ないのではないか」と考えるようになりました。オーケストラの各パートのトップの人たちが、僕にとって普段なじみのない楽器の解説に集まってくださったときにも、そこで演奏されたアンサンブルの見事さは「アマチュアを意識することなく書きたいように書く」ことを、ますます確信させるものでした。しかし、どんなに高水準の演奏技術があっても、このような無調音楽の演奏が容易であるはずがありません。指揮の小出氏をはじめ、演奏者の皆さんには今までにない大変な負担を強いることになったと思いますが、この場を借りてお礼を申しあげたいと思います。

 曲は、比較的速度の遅い独立した3曲からなり、1曲目はPizzicatoが広い音域で奏されるSecco(乾いた)の音楽、2曲目は、マンドリン、マンドラ、ギター、マンドロン・チェロが四重奏でオーケストラと絡み合う、叙情的なCantabileの音楽、3曲目は、持続音の累積とそれを寸断するsf.がモチーフになっています。マリンバは、マンドリンと同様にトレモロ奏法であるところから、異質な楽器でありながら同質の表現をもっているのと、アクセントのある音に打楽器としてマンドリンの補強ができるので、この組合わせが気に入っています。2台のマリンバは、コンチェルトのようにオーケストラと対峠するような関係ではなく、アンサンブルとして使われています。

(作曲者記)

マリンバは、マンドリンと同様にトレモロ奏法によって音を持続します。同じ奏法による打楽器と弦楽器という、質感の異なる音響の組み合わせが「3つの間奏曲」を着想させました。このようにマンドリン・オーケストラは、今まで試みられることのなかった新しいアンサンブルの可能性を持っています(例えば、同族の楽器でありながら東西で異なる発展をとげた琵琶など邦楽器との組み合わせ)。メトロポリタン・マンドリン・オーケストラの新しいプログラムを楽しみにしています。(西岡龍彦)

 

作曲家プロフィール

 

東京芸術大学音楽学部作曲科卒業、同大学院終了

第49回日本音楽コンクール作曲部門(管弦楽)第2位

第11回ブールジュ国際電子音楽コンクール入選

洗足学園大学 音楽・音響デザインコース助教授

東京芸術大学、桐朋学園大学非常勤講師


吉松隆(よしまつ たかし)

 

虹色機関Ⅰ(1992)

(初演:1992年11月1日 國分誠指揮 ジュネス・ミュジカル・マンドリン・オーケストラ)

 

 7つの音からなる虹の旋法による、虹の形をした音楽メカニズム。

中央に光の発生源である「機関部 Mobile Section」があり、最初から終わりまで16ビートのパターンを奏し続ける。それを反射して、取り囲んだ「虹 Rainbow Section」から協和音が発生する。

冒頭はエオリア旋法で始まり、中間部のフリギア旋法を経て、最後にリディア旋法に解決する。それに呼応して曲全体も、ppで始まりffに膨らんでppに消えてゆく。

1992年夏より秋にかけて作曲。

(作曲者記:初演時パンフレットより転載)

 

作曲家プロフィール

 

 1953年(昭和28年)東京生まれ。慶應義塾大学工学部を中退後、一時松村禎三に師事したほかはロックやジャズのグループに参加しながら独学で作曲を学ぶ。

 1981年に「朱鷺によせる哀歌」でデビュー。いわゆる「現代音楽」の非音楽的な傾向に反発した「世紀末叙情主義」を主唱し、5つの交響曲(第1番「カムイチカプ」、第2番「地球にて」、第3番、第4番、第5番)、5つの協奏曲(ギター協奏曲「天馬効果」、ファゴット協奏曲「一角獣回路」、トロンボーン協奏曲「オリオン・マシーン」、サクソフォン協奏曲「サイバーバード」、ピアノ協奏曲「メモ・フローラ」)、オーケストラのための<鳥の四部作>(「朱鷺によせる哀歌」「チカプ」「鳥たちの時代」「鳥と虹によせる稚歌」)、「アトム・ハーツ・クラブ組曲Ⅰ」、「同Ⅱ」や<鳥のシリーズ>を始めとする室内楽作品、<モノドラマ>などの舞台作品、ピアノ曲、ギター曲、邦楽曲など多くの作品を発表している。

作品は「鳥たちの時代/吉松隆作品集」(カメラータ・トウキョウ)を始めとしてそのほとんどがCD化されており、1998年からはイギリスのシャンドスとレジデント・コンポーザーの契約を結び、全オーケストラ作品を録音するプロジェクトが進行中である。(01年8月現在シャンドスより5枚のCDをリリース、絶賛発売中。)

また、評論・エッセイなどの執筆活動も盛んで、著書に「魚座の音楽論」「世紀末音楽ノオト」(音楽の友社)、編著に「クラシックの自由時間」(立風書房)などがある。


北爪道夫(きたづめ みちお)

 

カント(1997)

(初演:1997年9月6日 小出雄聖指揮 メトロポリタン・マンドリン・オーケストラ)

 

正確に言うと、CANTO FUNEBRE(葬送の歌)。亡き友に捧げたい。もっとも彼は、私が今後も書いてゆくであろう作品群のなかから、気に入ったものを勝手に(迷惑ついでに)選ぶだろう、きっと。だから、タイトルはCANTOだけにしておこう。

 楽器と私の小さな接点を大きく拡げるのが作曲。私も今、マンドリン・オーケストラのオリジナルを探す度に参加できて光栄です。

(作曲者記)

メトロポリタン・マンドリン。オーケストラの活動は、もっと社会的に認知されるべきものであると思い続けてきました。此の度の演奏会とCD制作は、この団体が如何に輝かしく、また地に足の着いた仕事を重ねてきたかを確実に証明することになるでしょう。(北爪道夫)

 

作曲家プロフィール

 

 1948年生まれ。74年 東京芸術大学大学院作曲家修了、池内友次郎、矢代秋雄、松本禎三らに師事。79~80年文化派遣芸術家として滞仏。77~85年”アンサンブル・ヴァン・ドリアン”に作曲・企画・指揮で参画、内外の現代作品を紹介。

94年・01年尾高賞、95年ユネスコ国際作曲家審議会大賞等を受賞。「北爪道夫オーケストラ作品集」(CD・Fontec)などのほか、広い分野にさまざまな作品があり、日本および世界各地で演奏されている。

 ほかに、93年よりアマチュア・オーケストラ「アンサンブル・オレイユ」を指揮・指導し20世紀作品のみによる定期演奏会を継続中。また、NHK FMベスト・オブ・クラシックのテーマ音楽やラジオドラマの音楽を担当し多数の受賞暦をもつなど、活動は多岐にわたっている。

 現在、愛知県立芸術大学教授。


国枝春恵(くにえだ はるえ)

 

ブレンズ for for Mandolin Orchestra(1991)

(初演:1991年9月22日 小出雄聖指揮 メトロポリタン・マンドリン・オーケストラ)

 

 "Blends"混合物、混成語の意。

私達が接しているマンドリン・オーケストラは、異なったルーツを持つ楽器の混合体である。リュート族(マンドリンの先駆マンドリーナ)、ガンバ族、ギター族等の混合による特殊な合奏体とも言える。

撥弦楽器のリュート族を弓で奏することにより、時代と共に音響理想の変化に対応しながら構造上の変化をもたらしている。例えば、胴体がくびれて弓弾し易くなったり、弦の張力や駒の高さが変化して弓による強弾が可能になったり。

 バイオリン族とマンドリン族を比較すると、その演奏上の可能性に大幅なギャップがあり、このことを念頭に置かないと作曲上様々な困難が降りかかってくる。3年前に作曲した"Coloring" for Mandolin Orchestra の際もこのことに注意しながら作業を進めていった。そして今回はこの点を逆手に活用すべく作曲した。

 全体は3つの章で構成されている。Ⅰ章、Ⅱ章は4人の独奏楽器群とオーケストラに分かれている。マンドリンの音質が室内楽的な美しい音色を持っているという特質から発想を得た。4人がバイオリンの弓であえて弓奏することは、異種の楽器を混合している行為である。これは、マンドリンオーケストラへの、私的なアンチテーゼである。トレモロによるレガート奏法は、独特の不安定な音響を作り出すので、Ⅱ章で多く用いられる。

Ⅲ章は、全員による軽快なトッカータで幕を閉じる。

 (作曲者記:初演時MET4thパンフレットより転載)

何とも懐かしいことで、もう10年前になります。

最終部分における劇画音楽のパロディーが、恥ずかしい感じですが、若気のいたり!と思って頂ければ幸いです。

メトロポリタン・マンドリン・オーケストラの皆々様と指揮の小出雄聖氏に拍手!(国枝春恵)

 

作曲家プロフィール

 

'83年 東京芸術大学大学院作曲専攻修了。故池内友次郎、野田暉行、宍戸睦郎、オリヴァー・ナッセン各氏に師事。'82年第33回ヴィオッティ国際音楽コンクール作曲部門特別賞。'86年,'93年タングルウッド音楽祭等国内外で作品が演奏される。'97年 ミュージック・オブ・ジャパン・トゥディIII招待作曲家。'00年ISCM「世界の音楽の日々」ルクセンブルク大会入選。

現在、熊本大学教育学部音楽科助教授。日本現代音楽協会、日本作曲家協議会会員。